小説を読みながら、やけにお腹が空くことはありませんか。
テレビやドラマ、アニメや漫画でも同様ですが……。
小説は、頭の中で情景を想像しながら読むせいか、特に鮮明に味が脳内で再生され、ウットリすることもしばしばあります。
そんな魅惑の『美味しい食べ物が登場する小説』を、自分が知る限りお伝えします。
本筋とは別に、読みながらお腹を空かせるのも楽しいかもしれません。
剣客商売【池波正太郎】
食通として有名で、食べ物に関するエッセイも多い作家さん。
それは、故・池波正太郎先生です。
「むかしの味」「散歩の途中で何か食べたくなって」など、食をテーマにしたエッセイも多く残しておられます。
これを読んで、実際に名店を訪れた方も居ることでしょう。
御多分に漏れず、私も行きました。
汁粉の「竹むら」とか、蕎麦の「まつや」とか……。
そんな先生の描かれる小説にも、美味しいモノがよく登場します。
それも、身近で馴染みの深いモノばかり。
特に「剣客商売」は、主人公の老剣士・秋山小兵衛がグルメなので、あちこちで美味しいモノを食べています。
しかも、四十歳年下の妻・おはる(なんと二十歳!)も料理上手で、毎日毎日、手の込んだ料理を老夫に作ってくれる……。
まるで、極楽のような暮らしです。
おはるが作る食事は、読んでいるだけで生唾が湧いてきます。
鴨の肉を焼いて薄切りにして、生卵と一緒に熱い飯にかけたもの。
葱がたっぷりの根深汁。
つけ焼きにした手長海老に、粉山椒をかけたもの。
茄子を網でこんがり焼いて、濃い目の味噌汁に入れたもの……。
どれも身近な食材だけど、ひと手間かけて、いかにも美味そうです。
また、小金持ちで知り合いも多いので、あちこちの居酒屋や料理屋、蕎麦屋に食べに行くことも。
料亭「不二楼」の見事な板前料理や、蕎麦屋の黒い太打ちの田舎蕎麦。
知り合いの漁師の母が振舞ってくれた、浅利と葱を薄味の出汁で似た、ぶっかけ飯。
夜中に読んでいると、お腹がグウと鳴ってしまいます。
蕎麦落雁や砂糖蜜をかけた羽衣煎餅、饅頭やお団子など、甘味もたくさん登場します。
酒も甘味も好きな小兵衛は、もしかしたら作者の池波先生の分身なのかもしれませんね。
御宿かわせみ【平岩弓枝】
そして、平岩弓枝先生の書かれる「御宿かわせみ」シリーズも、また美味しそうな食べ物がたくさん登場します。
ヒロインの「るい」さんが営む、大川近くの小さな旅籠・かわせみ。
そこを訪れるお客に出すのは、女中頭のお吉や板前たちが作る、心の籠った料理の数々。
丸々と太った鮎を焼き、笹の葉の上に盛り付けたもの。
鉄火味噌にサクサクの白菜漬け、海老真薯。
炊きたての飯に、赤紫蘇を刻んだものと炒った白ごまをふりかけた、特製のまかない飯。
番頭の嘉助さんが、三杯もお替わりをするのも頷けます。
「温め直したので、みそ汁の香りが飛んでしまった」など、女性ならではの(?)細やかな描写がリアルです。
また、個人的に印象に残ったのは、女中頭のお吉が作るお弁当。
泊まり客が事前に頼めば作ってくれる、携帯用の食事……
それは、梅干し入りの焼きおむすびと、ほぐした鮭と白ごまを入れた酢飯のおむすび。
ちゃんと傷み難いメニューで、おまけに竹の皮に入っています。
シンプルだけど美味しそうで、少し外出するお客まで頼むというのにも納得。
弁当箱「わっぱ」を扱う店が登場する話もあり、器にも心を配る「かわせみ」メンバーの心が伝わってきます。
また、牡蠣の土手鍋や、茹でたての枝豆など、酒飲みに嬉しいメニューも。
主人公の東吾やその友人達が、いそいそと箸をとる光景が目に浮かびます。
まとめ
いかがでしょうか。
面白くて、そして美味しい小説の数々。
手に取って、ぜひその魅力に触れてみて下さい。