「小説家」というのは、あるジャンルに特化した人がとても多いものです。
ある人は「ミステリー」に
ある人は「恋愛小説」に
そして、ある人は「時代小説」に
ですが、「志水辰夫」さんは違います。
「志水辰夫」さんは、ミステリーから恋愛小説、時代小説と、そのジャンルは多岐にわたります。
その内容も実に多彩で、読者を飽きさせる事はありません。
今回は、そんな「志水辰夫」さんをご紹介します。
40代で本格的に小説家デビュー
1936年、高知県に生まれた志水辰夫さんは、公務員の経験を経てから出版社に勤務し、フリーライターとなり、40代で本格的に小説家デビューとなりました。
そして、1981年8月に処女作となる「飢えて狼」を発表します。
その物語は、ボート専門店の店主である志水が、二人の客と海に出た後、店を焼かれ、全てを失いながらも、ソ連人大佐を亡命させる作戦に参加するという、壮大なものでした。
サスペンスの要素を含みながら、ハードボイルド小説を思わせるような、主人公「志水」の孤独な闘いに、読者は次第に引き込まれていきました。
「行きずりの街」がベストセラーに
そして、1990年には「行きずりの街」を発表。
さらに、第9回日本冒険小説協会大賞を受賞し、1992年には「このミステリーがすごい」で1位に選ばれました。
この作品は、かつての教え子の失踪を知り、塾講師である波多野は、東京へと探しに向かいます。
そして、妻だった女性の手塚雅子との運命的な再会、やがて立ちはだかる学園の黒い謎など、波多野という一人の男性が、自分の力で道を切り開いていくという物語で、サスペンスとラブストーリーを一度に楽しむ事が出来るストーリーに、ミステリー好きだけではなく、多くの読者を虜にしました。
多くの支持を集める「シミタツ節」
この「行きずりの街」は、2000年にはテレビドラマとして、2010年には映画化もされました。
志水辰夫さんの書く文章は独特で、「シミタツ節」としてファンには愛され続けています。
重厚なミステリーから、ドタバタ要素を含むコメディ作品まで幅広いですが、70歳を過ぎてから、時代小説に専念するという表明をして、「青に候」を発表しました。
かつて、共に藩で仕官していた永井縫之介の所在を尋ねた事から、あらゆる人物と出会い、そして別れや許しという経験を積んでいくという、時代小説でありながら、どこかハードボイルド的な要素を含んでいて、これまでの作風の全てを詰め込んでいるような、壮大なストーリーとなっています。
時代小説デビュー作とは思えないほどの、完成された作品です。
その緻密な人間模様や感情の起伏を表現した文章は、多くの支持を得ました。
華々しい受賞歴
多くの支持を得ていることは、過去の受賞歴からもよく分かります。
1983年に「裂けて海峡」で、第2回日本冒険小説協会賞優秀賞を受賞したのを始め、1985年の「背いて故郷」では、第4回日本冒険小説協会大賞、第39回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。
更に「行きずりの街」で、第9回日本冒険小説に協会大賞、1994年の「いまひとたびの」で、第13回日本冒険小説大賞短編部門大賞を受賞。
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2001年には、「きのうの空」で第14回柴田錬三郎賞を受賞と華々しいものです。
最新作である「疾れ、新蔵」は、中屋敷にいる姫を脱出させ、その逃避行の手助けをする新蔵という男の、剣術の見事さと、ちりばめられたミステリーの数々に、読みなから、その世界観にどんどん引き込まれていきます。
まとめ
いかがでしたか。
現在、82歳という高齢ですが、小説家としての技量はすさまじく、そのいつまでたっても瑞々しさを感じさせるスタイルは、変わる事がありません。
また、エッセイも多数、雑誌に執筆しています。
小説とはまた少し違う、志水辰夫さんの独特な感性と読者を引き込む文体は、また違った魅力を教えてくれます。